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エッセイ

化粧品がつなぐ宇宙との絆

山崎 直子(宇宙飛行士) 2016年12月14日

化粧品のことをコスメティクスともいいますが、それは、COSMOSが語源と言われます。では、化粧品がどうCOSMOS(宇宙)と繋がっているのでしょうか。

そもそも、宇宙を表す単語は幾つかあります。まず、SPACE。これは、地上からの視点で、空を見上げてある境よりも先を指す空間です。それに対して、UNIVERSEはもっと遠くからの視点で、この地球も人間も含む万物を指します。では、COSMOSはと言うと、秩序ある状態と言われます。138億年前にビッグバンで始まったとされる宇宙が、最初は混沌とした状態でしたが、だんだんと星が生まれ、惑星が規則正しく周回するようになり、秩序をもってきた宇宙の状態を指します。

そして、太古には、お化粧をするということは、音楽を奏でたり、歌ったり、踊ったり、絵を描いたり、お祈りを捧げるのと一緒で、宇宙と対話をするという意味があったのではと考えられます。ですから、女性だけのものではなく、男性もお化粧をしていたでしょうし、広い宇宙と私たちとをつなぐ絆となっていたことでしょう。

そんなお化粧ですが、宇宙船の中でもある程度することができます。小さなポーチに入るくらいの量であれば、クリームや化粧品を一通り持っていくことができます。NASAと提携をしているブランドのものであれば、カタログから自分で選択したものを支給されますが、化粧品はそれぞれ肌への相性がありますので、その他にも、含まれる成分をNASAへ提出して、アルコールとプロピレングリコールが含まれていないことが確認できれば、自分の好みのものを持参することができます。上記2成分は、宇宙船内での引火を防ぎ、空気清浄フィルターへの負荷を減らすため制限があります。ですので、香水やマニキュアなどは持参できませんが、その他のものは大体使用することができます。ちなみに、化粧品ケースの中のクリアシートは無重力で飛んでしまわないように予め外しておき、チップなども飛ばないように小さなマジックテープを付けておくなどの、ちょっとした工夫を施します。

もっとも慌ただしいスケジュールの中なので、ゆっくりお化粧する時間はありませんが、ちょっと口紅を塗るだけでも、気分が明るくなるものです。特に、人工的で自然の香りもなく、閉じきった閉鎖空間である宇宙船の中では、こうしたちょっとしたお化粧で、自分だけでなく周りの空気も明るくなるような気がしました。というお話をセミナーでしたら、ある化粧品会社の方が、病院や介護施設でも同じですよ、だからそうした施設を回って時々メーク体験講座をしているのですよ、と話してくださいました。皆様の日頃のお取り組みに敬意と感謝を表します。

それから、宇宙船の中は、24時間ずっとエアコンをつけているため、飛行機の中と一緒でかなり乾燥をしています。ですから、男性でも保湿クリームが欠かせません。顔も乾燥しますが、様々な実験や機器の取り付け作業により、手先が特に乾燥して皮がボロボロになってしまいます。また、空気やオゾン層に守られないため、紫外線の量も多くなります。窓ガラスにはUVフィルターをかけていますが、一部、地球観測用にUVフィルターをかけていない窓もあり、長時間そうした窓の近くにいると日焼けをしてしまいます。ですから、日焼け止めも必須となっていました。

宇宙船の中では、お風呂もシャワーも使えずに、タオルにお湯と石鹸をつけて、体を拭くくらいです。顔もメイク落としをきちんとは出来ずに、同じように濡れたタオルで拭いていました。髪の毛は、水のいらないシャンプーを使用しています。乾燥をすると、それを補おうとして油分は出てくるので、肌も頭皮も乾燥はするのですが油っぽくなる、という状態になってしまいますので、やはりお風呂が何より恋しかったです。

地上に戻った時、風の香り、土の感触、一つ一つが愛おしく感じました。当たり前と思っていることが、当たり前ではなく、有難いことだと感じます。 そんな日々の生活に彩りを与え、宇宙との絆を感じさせてくれるコスメティクスを改めて見つめ直すと、いろいろな気づきがあるような気がします。