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やさしい技術解説

水と油が仲良く同居

乳化と可溶化

水と油をとりもつ「界面活性剤」

図1.界面活性剤の構造

 仲の悪いもののたとえとして「水と油」というように、水と油は混ざり合いません。強く振り混ぜても水は水どうし、油は油どうしでまとまって分離してしまいます。

ここで登場するのが、この仲の悪い水と油の間をとりもつ界面活性剤です。界面活性剤があると、水と油が混じり合った状態で安定して、分離しにくくなります。界面活性剤は図1に示すように、水になじむ部分(親水基)と油になじむ部分(親泊基)の両方を持っているので、水と油を仲良く同居させることができるのです。

実は、化粧品の乳液やクリーム、化粧水には、界面活性剤が使われています。乳液やクリームでは界面活性剤によって「乳化」が、化粧水では「可溶化」がそれぞれ行われています。

水と油が混じり合う「乳化」技術

乳液やクリームは、水分、保湿剤、油分を皮膚に補給して、皮膚のうるおいと柔軟性を保つ化粧品です。水と油のように、本来は互いに溶け合わない液体どうしが混じり合った状態をエマルションといい、このような状態にすることを「乳化」といいます。化粧品だけでなく、乳化はアイスクリームやチョコレートなどの食品にも応用されている技術です。

図2の(a)は水と油が分離した状態、(b)と(c)は界面活性剤が入ってエマルションができている状態を示しています。(b)は水の中に油滴が入っていますね。これを水中油(O/W)型といいます。一方(c)のように油の中に水滴が存在するものを油中水(W/O)型といいます。

O/W型の油滴を拡大したものを図2(d)に示します。

親油基を油側に向けた界面活性剤が、油滴を取り巻くように球状に並んでいます。外側は親水基で水となじみ安定化しています。W/O型でも図2(E)に示すとおり、界面活性剤は油と水の間にきれいに並びます。身近な例では、生クリームはO/W型なので、コーヒーに混ざりますが、W/O型のバターは混ざりません。

図2.O/W型とW/O型エマルジョン

「乳化」の技術は、乳液やクリームだけでなく、クリームタイプやリキッドタイプのファンデーションなどのメークアップ製品にも使われています。O/W型は外相が水(ウォーターベース)なので、みずみずしい使用感とトリートメント性があり、W/O型は外相が油(オイルベース)なので、汗や水をはじき化粧持ちが良いという特長がそれぞれ発揮されます。

油が透明になって水に混じる「可溶化」技術

 さて、化粧品の中には、化粧水などの透明なものもあります。化粧水のように見た目は透明ですが、実際には、香料、うるおいや柔軟効果のための油、防腐剤、脂溶性のビタミンなど油性成分を含ませている場合には、「可溶化」という技術が使われています。

このように本来、水に溶けないはずの油性成分が、透明になって水に混じる現象が「可溶化」です。いったい、どういうメカニズムなのでしょうか?

図3に示すように、少量の界面活性剤が水に溶けているときはバラバラに溶けていますが、界面活性剤の濃度が高くなると界面活性剤どうしが集まって、球状の集合体を形成します。界面活性剤がこのように集合したものを「ミセル」と呼びます。親水基を外側に向けて球状になると、親油基と水の接触がなくなるため安定した状態になります。このミセルの中には油性成分をとりこむことができます。可溶化している状態では、ミセル粒子の直径が光の波長より短いため透明に見えるのです。

図3.界面活性剤のミセル形成の可溶性

このように界面活性剤は、化粧品の使用感触を良くしたり、効果のある成分を入れたり、さらに中身を安定した状態に保つといった重要な働きをしています。

私たちが生まれてはじめて栄養をとるのは母乳からです。母乳は油性の栄養分がリン脂質やカゼインという天然の界面活性剤で乳化され、赤ちゃんが栄養分を消化するのに適した状態になっています。

このように自然界では天然の界面活性剤を上手に利用しており、私たちはその知恵を利用させていただいているといえます。