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エッセイ
紫外線と皮膚
市橋 正光(神戸大学名誉教授 医学博士) 2012年5月1日
幼児期からの日常的ケアの必要性
1. 日やけの仕組み
夏の晴れた日の昼間に太陽紫外線を1時間も浴びると、翌日には誰でも日やけで肌は赤くなります。ところで、紫外線を浴びるとどんな仕組みで肌が赤くなったり、その後黒くなってくるのかご存知でしょうか? 紫外線が皮膚の一番外側にある表皮細胞の遺伝子に傷をつけるために赤くなり、その後黒くなるのです。
2. 肌が紫外線で黒くなるのは新しく作られたメラニンのため
黒い肌の表皮(角化細胞、色素細胞など)を顕微鏡でみると、たくさんのメラニンが表皮の主役の角化細胞の核の上に帽子をかぶったように分布しています。メラニンは表皮の一番底にパラパラと存在する色素細胞と呼ばれる細胞で紫外線の刺激を受けて作られます。作られたメラニンは周囲の角化細胞に送られて、角化細胞の核を紫外線から護る働きをしています。日やけで赤くなったり、黒くなったりするのは、皮膚が「もうこれ以上紫外線を浴びないで!」と悲鳴を上げていると考えることができます。
3. 子どもの頃の紫外線対策が重要なわけ
赤ちゃんが生まれた時の身体の細胞の数は約3兆個です。18歳頃の大人の体になると60兆個にも増えています。紫外線によって細胞の遺伝子に傷がつくと、細胞は一生懸命に傷を元のとおりに治す努力をします。それでも傷が多いと全部の傷を直すことができないのです。小児の細胞では大人よりも短い時間で細胞を増やしますから、遺伝子に傷をもったまま細胞分裂の準備をして遺伝子を倍に増やそうとします。その時傷が残っていると、間違った遺伝子を作ってしまうことになりやすいのです。また、大人を対象に詳しく調べると、10歳頃までに沢山の紫外線を浴びた人が皮膚がんになっている事が多いことも分かっています。このような事実から、紫外線対策は小児の頃から始めるのが良いのです。
4. 紫外線から肌を護るにはどうすればいいの?
地球に届く太陽の紫外線にはB波(290〜320nm)とA波(320〜400nm)の2種に分けられています。日やけの原因となる遺伝子の傷は主にB波ですが、A波も1,000倍くらい大量だとB波同様の傷をつけます。また、A波はB波の20~50倍くらい多く地表に届いていますし、さらに皮膚の深くまで入るのもA波です。さらに、冬になるとB波は夏の1/5と弱くなりますが、A波は1/2くらいにしか減少しません。B波は窓ガラスで止まりますが(ガラスには5mmくらいの厚さが必要)、A波はそのまま通過します。だから、A波対策も重要です。日影に入っていても紫外線は空中の小さな浮遊物質で反射・散乱されて横からも斜めからも肌に向かってきます。さらに地表やフェンスからの反射も浴びます。
現代人は20歳を過ぎた頃から顔などに「シミ」が出始めます。これが紫外線による老化(光老化)の最初のサインです。現在の人達は年間に平均で200MED(最少紅斑量)※の太陽紫外線を浴びています。20年間に換算すると4,000MED(1日だと0.57MED)浴びていることになります。80歳になって初めてシミがでるくらいに若々しい肌を保つには、1日に浴びても大丈夫な紫外線はわずか0.16MEDとなります。これは夏の真昼の約2分です。あまりにも短いですが、B波を有効に止める「日やけ止め」のSPF値を参考に、目的にあった製品を使用することによって、充分日やけを防ぐことができます。日傘を差し、日影を歩けばさらに紫外線対策としては有効であり、日常生活に不便はないでしょう。子どもの頃からの紫外線対策、また成人してからは戸外でのスポ-ツはもちろん、日常的に紫外線対策をとることによりしっかりと肌を守れば、80歳になっても若々しい肌を維持できるのです!
※MED(最小紅斑量):紫外線を浴びた24時間後、皮膚に紅斑を生じる最小限の紫外線照射量。
白人、黄色人種、黒人など皮膚のタイプによって違う。