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エッセイ

春は季節の変わり目?

海老原 全(たもつ)(慶應大学医学部皮膚科教室 准教授)
2012年5月1日

皮膚は人間の体の最も外側の被覆器官として、常に変化している外界の影響が体内に及ばないように、鋭敏に反応しそれらの変化に順応しています。さらに体内からの刺激に対しても機能を変化させています。皮膚は動いているという表現が使用されるのはそのような理由からです。

日本には四季があり、様々な景観を楽しめるというすばらしい土地柄ではありますが、温度、湿度などの変化は大きく、皮膚にとっては難しい反応を迫られる条件を伴っているともいえます。

春はよく化粧品かぶれなど皮膚トラブルが多いかと質問を受けることがあります。果たして実際そうなのでしょうか、皮膚の機能の季節変動はあるのでしょうか。古いデータになりますが、光線感受性の亢進[こうしん]、毛細血管抵抗の減弱、皮膚血流の増加、ヒスタミン皮内反応の紅斑について検討したところ、夏が最高で、春、秋、冬と少なくなると報告されています。すなわち春から夏にかけて皮膚の抵抗は少なくなり、炎症性の皮膚病変がおこる要素は強くなると考えられ、皮膚トラブルが増加してくる可能性は高くなることは十分予想されます。

実際に皮膚のかぶれ、接触皮膚炎についてはどうでしょうか。日本では最も頻度の高い接触アレルゲンである金属アレルギーについて考えてみましょう。冬にアクセサリーを身につけていてもかぶれの症状は出ないのに、汗ばむ季節になると同じアクセサリーでかぶれてしまうということがあります。この原因については二つのことを考える必要があります。

接触皮膚炎はその機序から刺激性接触皮膚炎とアレルギー性接触皮膚炎とに大別されます。ひとつは、アクセサリーと皮膚の間にたまった汗などが刺激となり皮膚炎を生じたという考え方、もう一つはアクセサリーそのものの金属アレルギーで接触皮膚炎が生じたという考え方です。

接触アレルギーは感作、誘発の2段階により発症しますが、その中でハプテンi)である原因物質が表皮蛋白に結合する必要があります。金属はイオン化して蛋白と結合し抗原となることが可能です、つまり、金属はイオン化して初めてアレルギーを起こすということが重要で、症状が出るためには、金属イオンの感作性と、実際の環境下でその金属がイオン化しやすいかどうか2面が関与するということです。

金属がイオン化して溶け出すことを溶出といいますが、溶出傾向が強ければアレルギーを起こしやすく、逆に溶出しなければ症状は出現しないということになります。貴金属はアレルギーを起こしにくいと言われるのは溶出が少ないからであり、例えば金などは感作性は弱くはありません。多汗、高温多湿な環境などでは溶出が多く、症状が出現しやすくなります。アレルギーも季節により変動があり得るということです。

化粧品ではどうでしょうか。やはり他のアレルゲンと同様に皮表の状態変化により、接触皮膚炎を起こしやすくなることが考えられます。また、春には新規の製品の使用が増え、それに伴い皮膚炎の発症も増加してくる可能性も考えられますのでで、より注意が必要と考えられます。

アレルギーの考え方の変遷について追加しておきます。以前は、アレルギーは一旦感作が成立すればアレルゲンの再侵入により必ず誘発される絶対的な反応と考えられてきました。しかし、近年、アレルギーはそのような絶対的な反応とは限らず、様々な修飾因子によって発症が規定されるものととらえられるようになってきています。

たとえば、薬疹においても、感染(ウイルス、細菌、マイコプラズマii)、真菌)、日光暴露、運動、食物(いわゆる自然食品を含む)、飲酒、月経、移植片対宿主病(GVHD)iii)、悪性腫瘍、肝疾患、腎疾患(透析)、薬物代謝障害、他の薬剤との相互作用などが修飾因子として加わり、発症する可能性が指摘されています。人の体の状態により発症したり、しなかったりすることもありえます。つまり、温度、湿度、紫外線量の変化などによっても変わってくることもあるということです。

最後になりますが、皮膚の状態を良く保つことは最近の経皮感作の考え方からも今後もっと重要視していく必要があると思われます。

  • i )ハプテン:タンパク質と結びついて抗体を作り、アレルギー発症の原因となる物質
  • ii)マイコプラズマ:非常に小さな細菌で細胞の核内に寄生する。
  • iii)移植片対宿主病(GVHD):移植された臓器(皮膚など)がレシピエント(臓器受給者)の臓器を攻撃すること。